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【シオヤ】深ドラステーション@関東-2【無人島】

358 :シオヤ小説再録1:2007/10/26(金) 10:18:40 ID:X4S+XMfk0
 拓郎はニートだった。就職前線に未だ春が来ない栃本県の田舎町、春に父親の口
添えでようやく就職した拓郎であったが、「仕事が単調なくせに拘束時間が長い。
拘束時間が長いくせに給料が激安。こんなの俺のすべき仕事じゃない」と言ってや
めてしまった。
 「俺みたいな頭のいい奴は社会のためにも頭脳労働をしないとな!」そういえば、
拓郎は地方の公立高校(それは普通科であったが、地元国立大教育学部に数人、そ
の他の生徒の半分が中堅以下の私立大学や短期大学に進学する学区三番手くらいの
高校であった)で1度だけトップを取ったことがある。それは高2最後の実力テスト
だった。その日から拓郎は東大受験生を名乗るようになった。校外模試を受けると
偏差値は50前後、東大の合格可能性はE判定だったのだが、「校外の模試はあてに
ならないんだよ」と嘯いて5年ほど経った。親に対する気遣いと公言しつつコンビニ
や新聞販売店でアルバイトをしながら4回ほど受験したであろうか?その間の拓郎の
口癖は「俺の行く大学は東大以外あり得ない」「予備校に行く必要はない」だった。
その結果、高校時代の同級生達と一緒に就職活動をする羽目になったのである。ただ
し、向こうは大卒、拓郎は高卒、ニートとしてで条件は全く違っていたのだが。拓郎
の口癖は「アルバイト先の店長が横暴で勉強できなかっただけだ。俺は頭はいいんだ。」
に変わっていた。ちなみに拓郎がトップを取ったのはマルチプルチョイス型式の国語
1科目だけ総合順位は367人中69位である。これは実は拓郎としてはよくできた方だった。


359 :シオヤ小説再録2:2007/10/26(金) 10:19:53 ID:X4S+XMfk0
 そんな拓郎に朗報が舞い込んできた。関西に引っ越した同じ歳の従兄で神戸大学
工学部の大学院に通っている芳郎(拓郎曰く「ヨシはマザコンのボンボンだし頭は
大してよくない。その証拠に東大じゃない。」)から関西に遊びに来ないかと連絡
があったのだ。前から欲しかった車を大学院進学祝いに新車で買ってもらうのだが、
今まで乗ってた車(芳郎は免許を取った時にその車を父親からもらった)がまだま
だよく走るのにもう下取りもつかなくなって逆に処理費用を請求された。可哀想だ
からそのまま乗って帰ってもらえるか。勿論ただで、それからガスも満タン入れて
おく。と打診された。
 車が欲しくてたまらなかった(人気車に乗っていればアニメキャラのようなかわ
いい彼女が出来るとも思いこんでいた)拓郎には願ってもない話であった。拓郎は
すぐに父親に交渉し、350坪ほどある自宅の敷地の一角にスペースを得た。と、同
時に新幹線をせびり倒して慌てて神戸に向かったのであった。
 拓郎は芳郎の運転で初夏の六甲山に連れられていったが、反応は終始鈍かった。
ツバルラガシーGT-B、かつて若者人気ナンバーワンだった国産車である。六甲の険
しい山道も10年落ちとは思えないパワーで何の苦もなくスイスイ上るのである。こ
いつが俺のものになるんだ。その思いばかりが滾っており、芳郎の説明など聞いて
はいなかった。別れ際、車を引き渡す時に芳郎はこう言った。「向こう着いたらす
ぐ名義変更お願いな。任意保険は昨日、家族限定外したけど、今月末で切れるから
ちゃんと契約してな。あと、これめがっさ速いけど飛ばしすぎないようにな。免許
も命もなくなるで。あ、そうそう。タイヤ早めに変えた方がいいで。ナンカンでも
フェデラルでもヨンクだからオッケーだけどな!」別れの言葉は長々と続いた。


360 :シオヤ小説再録3:2007/10/26(金) 10:20:58 ID:X4S+XMfk0
 翌日、栃本に帰り着いた拓郎は今までしてみたくてたまらなかったあることを即
座に実行に移した。インターネット巨大掲示板の雄3ちゃんねる。その車専門掲示
板に専用スレッドが立てられているドライブスポットがあった。その名はオートパ
ーラーサトウヤ。成田市内の小さなゴルフ場に隣接するガソリンスタンドが併設し
た24時間営業の自販機コーナーである。毎日自室でFMVの前に座って始終3ちゃん
ねるサーフィンしてきた拓郎はこのスレにも常駐していた。車を持たない身であった
ため荒し行為専門であったが、今日からは違うぞ!自分の車でサトウヤ詣ですること
が出来る一人前のメンバーなんだ!と自負を新たにし、それを証明するためにその日
の晩に早速サトウヤ詣でをすることにしたのだ。サトウヤにはこのスレッドの常連達
が自分達で編集したドライブBGM用のCD-Rや愛車を飾るためのステッカーを店内の
ボックスで交換していた。CD-Rの交換は明らかに違法だが、一部の理性的な人間以外
にはそのことがわかっていないようだった。拓郎にとってはそれらのアイテムを手に
することもまた魅力であった。今の拓郎にとってCDとはブックオフで売ってはした金
に換えるものであって、買うものではなかった。だから違法であろうと何であろうと
CDが欲しかったのだ。10年落ちとはいえ、ラガシーにはCDデッキが着いていたのだ。
また、せっかく手に入れた愛車に自分ならではの飾り付けもしたかったからステッカー
も欲しかったのだ。「今から初サトウヤ。栃本発。」そう書き込むと拓郎は車に飛び
乗った。月曜日であったが無職の彼には関係のないことであった。

361 :シオヤ小説再録4:2007/10/26(金) 10:22:17 ID:X4S+XMfk0
 拓郎が道に迷いながら3時間かけて辿り着いた午前0時のオートパーラーサトウヤ。
しかし、そこにはCD-Rもステッカーもなく、ボックスには和紙の表紙に「気晴らし
ノート」と毛筆で表書きされているが、表紙以外はレポート用紙をつづり合わせた
だけの粗末な帳面と、2個のスタンプ、スタンプ台が投げ込んであるのみだった。
 「なんだよ」拓郎は呟いた。神戸で入れてもらったガソリンはそろそろなくなりか
けている。拓郎としては大きな犠牲を払ってのサトウヤ詣であったのだ。拓郎はがさ
がさとやや乱暴にボックスの中を掻き回した。チェーンで繋がれていたスタンプがボ
ックスから転がりだして拓郎の腿に当たった。拓郎の白いズボンにはふざけた犬のイ
ラストが横向きにしっかり刻印されていた。「馬鹿にしやがって!」拓郎は声を荒立
てた。「気晴らしノート」を荒々しく開くとある言葉をその二文字で一ページを埋め
るように何ぺーじにもわたって書き殴った。「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死
ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死
ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…」
 1週間後、午前0時。拓郎は再びオートパーラーサトウヤの駐車場にいた。神戸ナン
バーのラガシーについていえば、それは1週間前のそれと少しだけ、しかし確実に違っ
ていたことがある。リアバンパーに酷いスリキズがあった。あの夜、午前4時に帰宅し
た彼は庭先に駐車する時そこにあった庭石に思い切りバンパーを擦りつけてしまったのだ。
バンパーとリアクォータの間のチリは明らかに開き、もはやリアクォータまでもが歪んで
いることは明らかであった。


362 :シオヤ小説再録5:2007/10/26(金) 10:23:16 ID:X4S+XMfk0
 そして拓郎自身についても一カ所違っていることがあった。その手に彫刻刀を持
っていたのである。柄にカナクギ流で「うしく たくろう」と名が刻まれた、小学
生時代に学校で買わされた丸刃の彫刻刀そのものである。
 1週間前、帰宅した拓郎は1日中FMVに貼り付いていた。父親にねだって引いても
らった光回線は接続解除、接続を繰り返すとリモートホストが変わってしまうので
あるが、これを利用して拓郎は一日中サトウヤスレでいわゆる自作自演をしていた
のである。その内容はスタンプを撤去すべきだ、そのために自分がチェーンを切って
スタンプを塵に出すのに賛成して欲しいというものだった。理屈を付けて主張し、別
のリモートホストからそれに対する賛成意見を書き込む、これを延々と繰り返して、
沢山の人達がスタンプを撤去すべきだと思っているような流れを作ったつもりだった。
むろん、こんな自作自演を見破れない人間は自分に酔った拓郎本人以外には一人もいな
かった。拓郎以外はスタンプの撤去などには賛成どころか、興味すら示さなかったので
ある。なにより、平日の昼間にFMVに貼り付いていられる立場の人間など3ちゃんねる
車専門掲示板全体でも拓郎以外には片手の指で余るほどしかいなかったのだから、その
中からこんな私怨に満ちた意見に本人以外に賛成する者が出たとしたらそれはまさに奇
跡だったのである。「 いくら行為を正当化しようとしても実行したら犯罪 」。それが彼
以外の唯一の人間が返したレスであった。その夜、寄せられたレスの全てがスタンプ撤
去反対、撤去したら警察に訴えて逮捕してもらうという意見や、馬鹿、死ね、といった
拓郎に対する罵倒であった。「昼間から自作自演するニート野郎に生きる資格無し(藁」
拓郎はキーボードを殴りつけ、シフトキーをはじきとばした。その屈辱が蘇る。


363 :シオヤ小説再録6:2007/10/26(金) 10:24:20 ID:X4S+XMfk0
 これから行う「聖なる復讐」を想って興奮し、真っ赤な顔になった拓郎は、その
小太りの肉体をラガシーから押し出した。「バイン」。投げ込むように閉じられた
ラガシーのドアが悲鳴を上げた。シートベルトが巻き取られずに、バックルがドア
に挟まれた音である。その音がただでさえ最高潮だった拓郎の興奮を三陸大津波レ
ベルに高めたことは言うまでもない。
 店内に入った拓郎は、「開けたら閉める」と書かれた注意書き通りに入り口の引
き戸を閉めることもせず、肩を怒らせてスタンプの入ったボックスの前に立った。
スタンプの片方を左手で掴む。版面にはユーモラスな犬の柄が彫られていた。1週
間前に拓郎の白いズボンを彩ったまさにあの図案である。拓郎は彫刻刀を版面にめ
りこませた。めりこませては掬う、その作業を延々と続けた。2分後、そこにはた
だゴムの波濤だけが存在し、ユーモラスな生き物の姿はこの世から永遠に失われて
いた。床には害虫の幼虫に似た青色を混じたゴム片が散乱し、床や拓郎の灰色のス
ラックスの裾にもまた小さな青い虫食い跡のようなドットがあった。
 復讐が終わった、息をついた彼の視界に黒いハッチバックがサトウヤの駐車場に
滑り込む姿が見えた。黒のBWM。バックしてくるそのテールには130iのエンブレム。
拓郎が先日捨てぜりふを吐いてやめてきた職場に3年勤めたとして、その全給料をつ
ぎ込んでやっと買えるという、車好きなら誰もが憧れるドイツ製ハッチバック車で、
130iはその最高級グレードであった。
 一瞬見とれた拓郎であったが、次の瞬間冷や汗が噴き出してきた。ばれたら警察だ。
スタンプを伏せたところで、散乱したゴム片を片づける時間はない上に、自分の
スラックスにも動かぬ証拠がある。


364 :シオヤ小説再録7:2007/10/26(金) 10:25:14 ID:X4S+XMfk0
 しかし、BWM130iの主は車から降りてこようとはしなかった。今の内に逃げるか、
さりげなく、さりげなく。拓郎は左手に持っていた元はスタンプであった物体をボッ
クス内に伏せ、彫刻刀をポケットに放り込み、開いたままの引き戸から屋外に出た。
そして素早くラガシーに乗り込むとシートベルトもしないまま発進させた。右腿に蚊
に刺されたような感覚があるが、裁かれる恐怖の方が強かった。県道を走り抜け、多
根川の堤防の上を走る国道との交差点に出た。その名も多根水郷ライン。川がよく見
える場所はわずかであっても霧のよく出る道路で独特の風情があり、その上レース場
のシケインのようなテクニカルなコーナーまであるということで3ちゃんねる自動車
専門掲示板でも人気のあるドライブコースの一つであった。拓郎は栃本に帰るため、
多根水郷ラインに左折し、我妻子市方面に走り始めた。前にいるのは香鳥市方面から
黄色信号を突っ切ってきた臭い排ガスをまき散らす鈍足のダンプカーだった。平日の
多根水郷ラインには深夜早朝であってもダンプや大型トラックが非常に多い。センタ
ーラインが白の点線になっている香鳥市方面はともかく、それが黄色い連続線になっ
ている我妻子市方面では走行ペースはこれら大型車達によって決められているのであ
った。
 数分走った頃であろうか、後ろから4つのイカリングのような光、そういう特徴的
なポジションを灯した車が近づいてきた。黒いBWMである。拓郎はシオヤで自分が
何をしたかを忘れていなかった。追いかけてきたのだ、逃げなければ、そうだ、ナン
バーも読まれてはならない。拓郎はヘッドライト、ポジションを消灯し、パッシング
ライトを引いてダンプを抜くために反対車線に出た。


365 :シオヤ小説再録8:2007/10/26(金) 10:26:06 ID:X4S+XMfk0
 一瞬であった。視界が真っ白になった。そして大音響、衝撃、赤と黄色だけの視
界。そして暗転。拓郎と神戸ナンバーのラガシーGT-Bの全てがここに終わった。
 黒いBWMも急停車した。テールには118iのエンブレム。反対車線で停まっている
大型トラック達のHIDが118iのガンメタリックの車体にプレアデス星団のように映り
込んでいた。
 「え?…そうだ、通報しなくちゃ」我に返った118iの主は気付いた。灰色のズボン
が「神□ 7▽ △ ・▽▽▽」と刻印された一枚のアルミ板がへばりついた鉄くず
の向こうに転がってHIDの光に照らされていた。怖い者見たさで近づくと裾に青い点
がいくつか着いており、反対側の一端には挽肉、モツが付着していた。「うわあああ
ああああああああ」。それが牛久拓郎とかつて呼ばれた「モノ」であった。
 目撃者として事情聴取を受けた118iの主は深夜ドライブと睡眠のための貴重な1時間
を無駄にした。そんな時、彼が癒しを求めるもの。それが3ちゃんねる自動車専門掲示
板とオートパーラーサトウヤであった。
 彼がサトウヤスレを開いた時、最新の書き込みは「キムオタ、ただいまシオヤ。床に
ゴムのクズ散乱。スタンプめちゃくちゃ。さっき怪しい香具師が店を飛び出していった。
神戸ナンバーのラガシー。」というものであった。サトウヤも物騒になったな。でも、
こんな心が傷ついた夜にこそチーズバーガー食べて癒されたい。118iは未だ事故処理が
続く現場からバックして側道に入って踵を返し、香鳥方面に走り出した。チーズバーガー
の色と臭気が何かに似ていることを、彼は未だ気付いていなかった。(おわり)


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